「今のはゴールだろう!」と、スタジアムで思わず立ち上がった経験はありませんか。
Jリーグを長く観ていると、試合の流れを変えてしまう判定に何度も出会います。筆者は20年以上、J1からJ3までスタジアムに通ってきました。少年サッカーでは笛を吹く側にも立ってきたので、怒る気持ちも、審判の難しさも、どちらも身にしみています。
この記事では、Jリーグで語り継がれる誤審を筆者独自の基準でランキングにしました。あわせて、日本サッカー協会(JFA)審判委員会が公表した数字やVARの限界、試合結果が覆らない理由まで整理しています。「なぜ起きたのか」「その後どうなったのか」まで読み解くことで、判定との付き合い方が少し変わるはずです。
この記事で学べること
- 2019年浦和対湘南の「幻のゴール」は、ネットを揺らしたシュートが得点と認められなかった象徴的な誤審
- ある期間の909試合では、クラブが議題にした150事象のうち37事象が誤審と認定された
- オフサイドは議題24件中12件が誤審で、2件に1件という高い割合だった
- J1第15節までの重大事象で、主審31件と副審27件の誤った判定が公表されている
- 競技規則第5条により、誤審が認められても試合結果や勝点は原則として変わらない
そもそも誤審とは何か、試合結果は覆るのか
ランキングに入る前に、多くの方が気になる疑問から答えておきます。
結論から言うと、誤審が後から認められても、スコアや勝点は原則として変わりません。
理由は、サッカー競技規則の第5条にあります。ここには「審判員の決定は最終である」と書かれています。つまり、試合中に主審が下した判断は、その場で確定するというルールです。
JFAが試合後に誤審を認めて謝罪したケースでも、再試合や勝点の修正は行われないのが基本です。個人的には、ここを知らずに「抗議すれば結果が変わるはず」と思っている方が意外と多いと感じます。
誤審は順位に残り続けます
試合結果が修正されないため、誤審の影響はそのまま順位表に残ります。優勝争いや残留争いの終盤では、1つの判定がシーズン全体を左右することもあります。
だからこそ誤審は大きな騒動になり、何年たっても語り継がれます。毎年のJ1降格争いを見ていても、勝点1の重みは本当に大きいものです。
筆者が選ぶJリーグ誤審ランキングTOP5

ここからが本題です。順位は、次の3つの視点で筆者が独自に決めました。
- インパクト(どれだけ話題になり、語り継がれているか)
- 試合への影響(得点やPKなど、結果に直結したか)
- 公式の認定度(JFA審判委員会が誤審と認めたか)
あくまで一人の観戦者の見方なので、異論はあると思います。審判個人への評価とは切り分けて考えたい方は、Jリーグ審判のひどい判定ランキングもあわせて読むと視点が広がります。
| 順位 | 事例 | 判定の種類 | 選んだ理由 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 2019年J1第12節 浦和対湘南 | ゴール判定 | 国内外で大誤審と報じられた |
| 2位 | 横浜FM対浦和 | オフサイド見逃し | VARがあっても起きた |
| 3位 | 神戸のヘディングによる得点 | オフサイド見逃し | 得点が認められ公式に誤審と認定 |
| 4位 | 鳥栖対柏 | PK見逃し | 「PKに値する」と明言された |
| 5位 | Jリーグ開幕前年 西が丘 | バックパス | サポーターの間で語り継がれる |
第1位 2019年J1第12節浦和対湘南の幻のゴール
Jリーグの誤審と聞いて、真っ先にこの試合を思い浮かべる方は多いでしょう。
湘南ベルマーレのシュートは、確かにゴールネットを揺らしました。ところがボールはネットに当たった後、反対側のサイドネットへ跳ね返ります。主審と副審はこれを外れたシュートだと誤認し、そのままプレーを続けさせました。
試合はカウンターへと流れ、ゴールは「幻」になったのです。
この判定は国内外のメディアで「大誤審」と報じられ、世界的にも話題になったとされています。その後、審判やJFA側から誤審を認めるコメントや謝罪が出たとされますが、スコアや勝点は変更されていません。
浦和レッズの長い歴史の中でも、これほど相手側に同情が集まった試合は珍しいと思います。勝ったチームのサポーターでさえ、複雑な表情をしていたと聞きました。
筆者の体験 その1
この試合は中継で観ていました。最初はポストに当たって外に出たのかと思い、何も疑わなかったのです。ところがリプレーを見て、ボールが明らかにゴールの中にあることに気づき、思わず声が出ました。自分も最初は審判と同じように見間違えていたことが、正直ショックでした。
ネットの中で跳ね返るボールは、角度によっては本当に外れたように見えます。人間の目の限界を、これほどはっきり示した場面はないかもしれません。
第2位 横浜FM対浦和のオフサイド見逃し
2位は、VARがある時代に起きた誤審です。
横浜F・マリノス対浦和レッズの試合で、PKの場面に至るまでのオフサイドが見逃されていました。これが後に判明し、JFA審判委員会が誤審だと認めています。審判委員会は「非常に遺憾」という言葉を使いました。
注目したいのは、なぜ見逃したのかという分析です。審判委員会によると、VARを含む審判団はPKそのものの判定と、その後の角田選手と牲川選手の接触に意識を集中しすぎていました。その結果、オフサイドの事象への注意が薄れたと説明されています。
映像があっても、どこを見るかを間違えれば誤審は起きる。この事例は、そのことを教えてくれます。筆者はこれを、VAR時代の誤審を考えるうえで最も重要な事例だと考えています。
第3位 神戸の得点が認められたオフサイド見落とし
3位と4位は、JFAが開いた第1回レフェリーブリーフィングで公表された事例です。レフェリーブリーフィングとは、判定について審判委員会がメディアに説明する場のことです。
このときはJリーグ1〜3節で、クラブから申し出があった判定のうち10シーンが映像付きで検証されました。
その一つが、コーナーキックからの競り合いの場面です。神戸の選手がヘディングした瞬間、橋本選手がオフサイドポジションにいました。それにもかかわらず、得点が認められています。
審判委員会の副委員長は、この場面について「判定が正しくなかった」と誤審を認めました。得点という結果に直結した点で、影響の大きい誤審です。
第4位 鳥栖対柏で見逃されたPK相当のホールディング
同じブリーフィングで取り上げられたのが、サガン鳥栖対柏レイソルの試合です。
ペナルティエリア内で、相手をつかんで動きを妨げるホールディングがありました。しかし笛は吹かれず、PKは与えられませんでした。
これはPKと考える。笛は吹かれなかったがPKに値するものだった
— JFA審判委員会 副委員長(レフェリーブリーフィングにて)
ここまではっきり言葉にするのは、なかなか勇気がいることだと思います。経験上、審判側が「間違いでした」と明言する場面はそう多くないので、筆者はこの発言を前向きに受け止めました。
第5位 Jリーグ開幕前年に西が丘で起きたバックパス誤審
最後は、少し昔の話です。
Jリーグが開幕する前年、国立西が丘サッカー場での試合で大きな誤審があったとされています。この年はバックパスルールが導入された年でした。バックパスルールとは、味方が足で蹴ったボールをGKが手で扱ってはいけないという決まりです。
GKへのバックパスの処理をめぐって大きな誤審が起き、サポーターが怒りを爆発させた騒動の一つとして語り継がれています。
ただし、試合の詳しい状況やルール解釈については、確かな情報が限られています。厳密にはJリーグ開幕前の出来事でもあるため、5位としました。新しいルールが入った年は、審判も選手も手探りになりやすいものです。
番外編 シーズンを通した接触プレー判定のブレ
一つの試合ではありませんが、番外編として挙げておきます。
JFA審判委員会はあるシーズンの総括で、次のように振り返っています。
接触プレーを巡る判定の振れ幅が大きかったが、少しずつ安定感が増してきた
— JFA審判委員会(シーズン総括)
シーズン前半は判定にばらつきがあり、後半に改善していったという流れが読み取れます。現地で観ていても、「同じような接触なのに、試合によって笛が違う」と感じることは確かにありました。
数字で見るJリーグの誤審

ランキングの事例は、氷山の一角にすぎません。JFA審判委員会は、誤った判定の件数を公表しています。
まず、J1第15節までの重大事象(ゴール、PK、退場など)の数字です。
この数字を公表した記者会見で、JFA審判委員長は判定精度への「危機感」を示しています。数字を隠さず出すこと自体が、透明性を高める取り組みだと言えます。
主審の誤審で多いのはハンドと下半身の接触
主審の31件を内訳で見ると、はっきりした傾向があります。
主審の誤った判定の内訳(J1第15節まで)
8件
8件
4件
3件
2件
6件
DOGSO(ドグソ)とは、「決定的な得点の機会を反則で止めること」です。本来は退場になる重い反則ですが、それを見逃したケースが3回ありました。
「その他」の6件は、次のような内容です。
- 上半身の接触を誤ってPKとした
- ペナルティエリア外の事象をエリア内と判定した
- ハンドがあったのに得点を認めた
- イエローカード相当の反則で退場にした
- チーム役員を退場させなかった
- 集団的対立で2枚目のイエローカードを出さなかった
見逃しが多く、誤って反則にしたケースは少ない。「吹くべき笛を吹けなかった」誤審が中心だという点は、覚えておきたい傾向です。
また、副審が関わるオフサイドの誤審では、得点か否かに関わるものが14件、大きなチャンスになる攻撃に関わるものが3件、PKに関わるものが1件ありました。
PKとオフサイドに誤審が集中する理由
別の期間のデータもあります。J1からJ3、ルヴァンカップを合わせた909試合の集計です。
| カテゴリ | クラブとの議題になった事象 | 誤審と認定 | 割合の目安 |
|---|---|---|---|
| 全体 | 150件 | 37件 | 約4件に1件 |
| PKに関する事象 | 73件 | 20件 | 約4件に1件 |
| オフサイド判定 | 24件 | 12件 | 2件に1件 |
クラブが「おかしい」と申し出た判定のうち、オフサイドは半分が実際に誤審でした。オフサイドは、クラブの疑問が当たりやすい判定だと言えます。
少年サッカーで副審をしてきた中で気づいたことですが、オフサイドは「パスが出た瞬間」と「選手の位置」を同時に見なければなりません。目は一つの場所しか追えないので、これが本当に難しいのです。
PKも同じで、ペナルティエリア内は選手が密集しています。手や足の小さな接触が、別の選手の体に隠れてしまうことはよくあります。
VARがあっても誤審がなくならない理由

「VARがあるのに、なぜまだ誤審が起きるのか」。これは今、最も多い声だと思います。
VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)とは、別室で映像を確認し、主審をサポートする審判のことです。ただし、何でも見直せるわけではありません。
- 得点やPK、退場など、試合を左右する場面を映像で確認できる
- 主審が見えなかった角度からのチェックができる
- 介入できる場面が限られている
- 最終的な決定権はあくまで主審にある
- 映像を見る人の注意がそれれば、見落としは起きる
第2位の横浜FM対浦和の事例は、まさに3つ目の弱点が出たケースです。PKとその後の接触に意識が向き、手前のオフサイドが抜け落ちてしまいました。
多くの方がVARを「誤審ゼロの魔法」だと思われがちですが、実際は人間が映像を見て判断する仕組みです。映像を見てもなお意見が分かれるオフサイドやPKの場面も、実際に起きています。
筆者の体験 その2
地元の少年大会で副審をしたとき、オフサイドで旗を上げたら、ベンチの保護者が撮った動画では明らかにオンサイドでした。自分では確信を持って上げた旗だったので、本当に冷や汗が出ました。その日から、プロの副審への見方が大きく変わったのを覚えています。
VARは誤審を減らす道具であって、なくす道具ではありません。この前提を持っておくだけで、判定へのイライラは少し和らぐと思います。
審判委員会は誤審にどう向き合っているのか
以前のサッカー界では、判定の説明はほとんど表に出てきませんでした。今は少しずつ変わってきています。
その中心にあるのが、先ほど紹介したレフェリーブリーフィングです。流れは次のようになっています。
判定が検証され公表されるまでの流れ
誤審を認めるだけでなく、「どこで認知や判断がずれたのか」まで説明する姿勢は評価したいところです。
一方で、この方法にも限界があります。誤審をした審判への処分や、再発防止策の効果が翌シーズンにどう表れたかまでは、詳しい情報が多く出ていません。ここは今後もっと見えるようになってほしい部分です。
判定の公表を観戦に生かす
ブリーフィングで説明された判定を知っておくと、次に似た場面が起きたとき「これは反則になりやすい」と予想できます。ルールの理解が深まり、観戦がぐっと面白くなります。
誤審とうまく付き合う観戦のコツ
誤審に腹が立つのは、それだけクラブを大切に思っている証拠です。筆者もゴール裏で何度も声を荒らげてきました。
ただ、長年観てきて思うのは、怒りだけで終わらせるのはもったいないということです。浦和レッズのサポーターのように熱い応援で知られるクラブでも、判定を冷静に語れる人が増えてきたと感じます。
判定にモヤモヤしたときに確認したいこと
これから観戦を始める方は、サッカー観戦を初心者が楽しむ方法とあわせて、オフサイドとハンドの基本だけでも押さえておくと、判定の見え方がまったく変わります。
よくある質問
Q1. 誤審が認められたら、試合はやり直しになりますか?
いいえ、原則としてやり直しにはなりません。競技規則第5条で「審判員の決定は最終である」と定められているためです。JFAが誤審を認めて謝罪したケースでも、再試合や勝点の修正は行われないのが基本です。
Q2. Jリーグの誤審はどこで確認できますか?
JFA審判委員会が開くレフェリーブリーフィングで、クラブから申し出のあった判定が映像付きで検証され、メディアを通じて公表されています。誤審の件数や内訳が発表されることもあります。
Q3. Jリーグでは年間どのくらい誤審があるのですか?
年間の正確な総数は分かりませんが、公表された数字はあります。ある期間の909試合では、クラブが議題にした150事象のうち37事象が誤審でした。別の期間では、J1第15節までの重大事象で主審31件、副審27件の誤った判定があったとされています。
Q4. 誤審をした審判は処分されるのですか?
処分の有無や内容について、詳しく公表される情報は限られています。審判委員会は誤審の原因を分析して説明し、改善に取り組む姿勢を示していますが、個別の処分までは見えにくいのが現状です。
Q5. VARがあれば誤審はなくなりますか?
なくなりません。VARが介入できる場面は限られており、最終決定権は主審にあります。横浜FM対浦和の例のように、映像を確認する側の注意がそれて見落としが起きることもあります。VARは誤審を減らすための仕組みと考えるのが現実的です。
Jリーグの誤審ランキングを振り返ると、どの事例にも「人間が判断する以上、誤りは起きる」という共通点が見えてきます。幻のゴールも、VAR時代のオフサイド見逃しも、その例外ではありませんでした。
次の試合で気になる判定があったら、まずはその場面がPKやオフサイドなど、誤審が起きやすい種類かどうかを考えてみてください。そして後日、審判委員会の説明が出ていないかを確かめてみましょう。
数字を公表し、誤りを認めて説明する動きは、少しずつ広がっています。判定をめぐる議論が、怒りだけでなく理解につながっていけば、Jリーグはもっと面白くなるはずです。

